その後は音信が途絶えて不審極まりない。そもそも去る正嘉元年丁巳八月二十三日戌亥の刻の大地震について、日蓮は諸経を引いてこれを勘えた。これは念仏宗と禅宗等に帰依された故に日本を守護する諸大善神がいかりをなして起こした災である。もしこれを対治しないならば他国からこの国が破られるだろうとの勘文一通を撰し、正元二年庚申七月十六日貴殿を通じて故最明寺入道殿へ進覧した。その後九箇年を経て今年大蒙古国より牒状があったというを聞いてという。経文のとおりであればかの国がこの国を責める事は必定である。そのため日本国の中では日蓮ただ一人がまさに彼の西戎[蒙古]を調伏する人であるとかねてこのことを知り論文にこれを勘えた。君の為、国の為、神の為、仏の為に内奏をしていただたい。委細の旨は見参を遂げて申しあげましょう。恐恐謹言。
謹んで申し上げる。そもそも正月十八日に西戎大蒙古国の牒状到来したという。日蓮が先年諸経の要文を集めこれを勘えたことは立正安国論の通りであり、少しも違わず符号した。日蓮は聖人の一分に当たる。未来の出来事を知るからである。そこで重ねてこの由を諫言する。急ぎ建長寺・寿福寺・極楽寺・多宝寺・浄光明寺・大仏殿等への御帰依を止めなさい。そうしなければ重ねてまた四方より責めて来るだろう。速やかに蒙古国の人を調伏して我が国を安泰にするべきである。彼を調伏できる事は日蓮でなければかなわないことである。諌める臣が国にいれば則ちその国は正しく、いさめる子が家にいれば則ちその家はまっすぐになる。国家が安全か危険かは政道が正しいか否かによる。仏法の邪正は経文の明鏡による。この国は神国である。神は非礼を認めない。天神七代・地神五代の神々、そのほかの諸天善神等は一乗を擁護する明らかな神である。しかも法華経をもって食となし正直をもって力とする。法華経にこうある。「諸仏・救世者は大神通に住して衆生を悦ばしめんがための故に無量の神力を現じたものである」
法華経を捨てる国をどうして善神が怒りを成さないことがあろうか。
仁王経にこうある。
「一切の聖人が去る時七難は必ず起こる」
かの呉王は伍子胥ｺﾞｼｼﾖの諌めを捨てて吾が身を亡した。桀王・紂王は竜蓬・比干を失って国位を失った。今日本国は既に蒙古国に奪われようとしている。なぜ歎かないのか。どうして驚かないのか。日蓮の申し上げる事を用いられないなら、必ず後悔されるでしょう。日蓮は法華経の御使いである。
経にこうある。
「則ち如来の使いであり如来の所遣として如来の事を行じる」
三世諸仏の事とは法華経である。このことは各所へお送りした。一か所に集めて御評議のうえお返事にあずかりたい。所詮は万祈を抛って諸宗を御前に召し合わせ、仏法の邪正を決していただきたい。谷底の長松をいまだ知らないでいるのは良匠の誤りであり、闇の中の錦衣をいまだ見つけられないのは愚人の失である。三国において仏法の分別は殿前で行われた。所謂阿闍世・陳隋・桓武がこれである。あえて日蓮は自身のために言うのではない。ただ偏に大忠を懐く故であり自身の為にこれを言うのではない。神の為、君の為、国の為、一切衆生の為に申し上げるのである。恐恐謹言。