この時この人の前に初めて仏・菩薩・二乗が立たれるのである。この時に二乗や菩薩は初めて成仏し、凡夫も初めて往生する。このために在世・滅後の一切の衆生の真の善知識は法華経なのである。通常の天台宗の学者は爾前において当分の得道を許すが、自義においてはなお当分の得道を許さない。しかしながらこの書においてはその義を述べない。略してこれを記し、追って詳しく記すこととする。
大文の第六に法華・涅槃による行者の心すべきことを明かす。
釈尊一代の教門の勝劣・浅深・難易等については先の段に既に示した。この一段では一向に後世を思う末代の常没の五逆罪や謗法・一闡提等の愚人の為に注す。
略して三段がある。
第一には在家の諸人は正法を護持することにより生死を離れ、悪法を持つことによって三悪道に堕ちることを明かし、第二にただ法華経の題目のみを唱えることによって三悪道を離れることができることを明かし、第三では涅槃経は法華経の為の流通分であることを明かす。
第一に在家の諸人が正法を護持することをもって生死を離れ、悪法を持つことによって三悪道に堕ちることを明かかす。
涅槃経第三にこう説かれている。
「仏が迦葉に言われた。よく正法を護持する因縁の故にこの金剛身を成就できたのである」とある。また「ある時国王がいて名を有徳といった。(中略)法を護る為に、(中略)この諸々の破戒の悪比丘とはげしく戦闘した。(中略)王はこの時に法を聞くことが出来たので心は大いに歓喜し、ついで命を終えたとき、阿シユク仏の国に生まれた」
この文の通りならば、在家の諸人は特別の智慧や修行をしなくとも、謗法の者を対治する功徳によって生死の苦しみから離れることができるのである。
問う。 在家の諸人が仏法を護持するときはいかにすべきか。
答える。 涅槃経にこうある。
「もし衆生がおり財物に貪著しているならば、我はまさに財を施し、その後にこの大涅槃経をもってこれを勧めて読ませるだろう(中略)・まず先に優しい言葉でその意に随い、その後にしばらくまさにこの大乗の大涅槃経をもってこれを勧めて読ませるだろう。もし凡俗の者にはまさに威勢をもって強く迫って読ませるだろう。もし驕り高ぶる者には我はまさにその為にしもべとなってその意に随順して歓喜させ、そしてその後にまたまさに大涅槃をもってこの者を教導するだろう。もし大乗経を誹謗する者がいたならば、まさに勢力をもってこれを打ち砕き屈服させ、すでにくじき伏しおわった後に、勧めて大涅槃を読ませるだろう。もし大乗経を愛し願う者がいたなら、我は自らまさに往いて恭敬し供養し尊重し讃歎するだろう」
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