同志と共に

法華経の流通分並びに涅槃経には、実教を前とし権教を後とすべきであるとあるが、釈尊在世においては、実教を隠して権教を前とした。入滅後には実教を前として権教を後とするべき道理が顕然である。しかしインドでは正法一千年の間は外道があった。そして、ただ小乗のみの国もあり、ただ大乗のみの国もあった。また大・小兼学の国もあった。中国に仏法が渡ってもまたインドと同様であった。日本国には外道も無く、小乗の機根も無く、ただ大乗の機根のみあった。大乗においても法華経以外の機根はない。ただし仏法が日本に渡り始めた時、しばらく小乗の三宗・権大乗の三宗が弘まったが、桓武天皇の時代・伝教大師の時に、南都の六宗派を破折して天台宗と成った。倶舎・成実・律の三宗の学者もかの教えのように、七賢位・三道を経て見惑・思惑を断じて二乗と成ろうとは思わない。ただ彼の宗を習って大乗の初門とし、彼の極を得ようとは思わなかった。権大乗の三宗を習う者も五性を各々別とする等の宗義を捨てて、一念三千・五輪等の妙観を求めた。大小・権実を知らない在家の檀那等もただ法華・真言の学者の教えにしたがってこれを供養した。日本はインドや中国と違ってただ純円の機であった。恐らくは霊鷲山八年の機のようだったのだろう。
これらのことから考えると、浄土の三師は中国人であり、権大乗の機を超えることもない。法然においては日本が純円の機・純円の教・純円の国であることを知らない。権大乗の一分である観経等の念仏や、権・実をも弁えていない中国の三師の釈をもってこの国に流布させ、実機に権法を授け、純円の国を権教の国としようとした。醍醐をなめる者に蘇味を与える失のようなもので、誠に甚だしく多い。